蝉フィクション

宝くじ1億円当てた男、砂吹(偽名)。彼に誘われた見ず知らずの4人の共同生活 in London. リアルタイム小説&ガイドブックの折衷案。

第11話「ホームレスが言った。金をくれ。それがダメなら洗剤でもいい」

 

色の部屋で遊んだという思い出を
話してくれた少女と別れを告げブライト
ン到着。老婆にお金をあげた所を見てい
たのか、大男が目の前に現れて言った。

 

 

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 作家志望、24歳、ロンドン2ヶ月目

 

 

 今回は続きものなので、10話を先に読むことをオススメします。

olm-h.hateblo.jp

 

 

 

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老婆が手を合わせて座っていた。

 

老婆の前には紙コップが置いてある。

 

砂吹は、ポケットから小銭を取り出すと、2ポンド老婆に手渡した。

 

老婆は丁寧にお礼を言った。

 

 

 

 

「意外か」

 

「まだ何も言ってないけど」

 

「おれだって全員に入れてるわけじゃない。年寄りだけだ」

 

 

 

 

おれが宝くじに当たっていることとは、関係ない。

 

そう言いたいのかもしれない。

 

それくらい、短い付き合いだが、分かってる。

 

分かってるよ、と伝えたいが、何と言っていいかは、分からない。

 

 

 

 

「そもそも、若いのにただ座ってコップを置いて待ってるだけの奴は、納得がいかない。別に働けとは言わない。働けるかは分からないからだ。しかし、膝を抱えて下を向いているだけの奴に、どんな理由と共感があれば金を入れるんだ。それに引き替え、あの老婆はずっと手を合わせて、一人一人にお願いをしていた。更に2回も礼を言った」

 

そうだね、と私は言った。

 

「人間、何かしらの能力を金に変えて生きている。技術、体力、社交性、時にはそれは、丁寧にお願いすることかもしれない。神様ってのが本当にいるんなら、金に変える能力を、一人ひとつくらい与えているもんだ」

 

 

 

 

その時、私たちの背後から突然、背の高い男が声をかけてきた。

 

細身だが、190cmほどあるだろうか。

 

灰色のトレーナーは汚れている。

 

使い古されたキャップを目深にかぶっているせいで、目元は黒くつぶれている。

 

 

 

 

「金をくれ。少しでいい」

 

砂吹がゆっくりと私の方を見る。が、ぎこちない。油の足りないロボットが、ぎぎぎぎ、と動いているようだ。

 

「こいつは、金を脅し取る能力を与えられたらしい」

 

格好つけてはいるが、内股になっている。

 

 

 

 

男はそれから慌てたように、しかし丁寧に、自分の置かれている状況を説明した。

 

「頼む。必ず返す。£10でいい。それがダメなら洗剤を買ってくれ」

 

「洗剤?」 

 

「ほらみろ。こいつは、洗剤を金に変えることができるらしい」

 

 

 

 

おまえはマジシャンかと訊ねろ、と言っている砂吹を無視して「どうして洗剤が必要なの」と私は訊ねる。

 

「とにかく、洗剤がいる。大量にだ。おれは、全財産入った金の袋を落としてしまったんだ。たいした額じゃないが、文字通り£1もない。頼む。洗剤と、あとできでば……」

 

できれば欲しい、と言ったその後の物が、アルコールだとかグリセリンだとか、よく聞き取れなかった。

 

私は携帯にスペルを書いてもらったが、それでもこれが何なのかはすぐには分からなかった。

 

 

 

 

「いいじゃない。洗剤なんて安いもん」

 

「いやだね、こいつは年寄りじゃない」

 

「こんなにお願いしてるのに? さっきの老婆と何がちがうのよ」

 

「いやなもんはいやだ! 助けたいならお前がやれ」

 

ここまでくると、もうどうにもならない。

 

 

 

 

私は、土地勘のない場所で洗剤などを買うのは大変そうだと思い、言われるがまま£10渡した。

 

男は何度もお礼を言った。

 

「金は必ず返す。今日の午後3時に、この場所へ来てくれ」

 

男はその場で書いたメモを渡し、そして立ち去った。

 

 

 

 

グリセリン、糊、PVA だってさ。何に使うんだろ」

 

「何の話だ」

 

「さっきの人が、できれば欲しいって言っていた物。薬品か何かかな」

 

砂吹は携帯画面に示されたそれらの材料を見て、にやりと笑った。

 

 

 

 

「こいつはきっと、毒薬の作り方だな」

 

「なんでまた」

 

「PVAだぞ? ポイズン、バイオレンス、アクションだ。きっとそのメモの場所に行くと、新たな仲間が待っていて、身ぐるみはがされるにちがいない。£10で済んだと思って、これ以上首を突っ込むな」

 

アクションってなんだよ、と私は思う。

 

 

 

 

悪い人には見えなかったが、なぜ彼は洗剤が必要だったのだろう。

 

そして、なぜ焦っていたのだろう。

 

PVAをよく調べてみると、ポリビニルアルコールのことだった。洗濯のりに良く使われるらしい。

 

洗剤と洗濯のり? クリーニング屋さん? あんあ汚い格好で?

謎は深まるばかりだった。

 

 

 

 

ーーーーー 

 

 

 

 

「ねえ気になるから行ってみようよ」

 

「いやだね。どうせ人けのない倉庫みたいな所で、身ぐるみ剥がされるに決まってる」

 

「大丈夫だよ。地図で見る限り、海岸沿いの大きい通りみたいだし。きっと人もいっぱいいるよ」

 

「いやだ。今日は3人目との顔合わせ。予定は以上だ」

 

 

 

 

駄々をこねる砂吹を引きずって行ったため、時刻は3時半を回ってしまっていた。

 

もう待っていないだろう。

 

そもそも、背が高かったとはいえ、この混雑から今日初めて会った男性を見つけるのは難しいかもしれない。

 

そう思わせるほど、多くの人で賑わっていた。

 

 

 

 

砂吹は「人ごみは嫌いだ、もう行くぞ」と着いた瞬間から言い続けている。

 

もうちょっとだから、と言って全力で手を引いて連れ回す。

 

子どもが生まれたら、たかが買い物でも、こうやって何倍も疲れるのだろうな。

 

でも家族は欲しい、子どもは2人、男の子と女の子……

 

 

 

 

快晴で気温が高く、頭が朦朧として、変な妄想を始めた頃だった。

 

「あ、いた」

 

見つけた。

 

そこには人だかりができていて、その中心に、彼はいた。

同じ灰色のトレーナーとキャップ。まちがいない。

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、私は息を飲んだ。

 

洗剤ってまさか……

 

 

 

 

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思わず見とれてしまう。

 

隣を見ると、砂吹も口を開けている。

 

 

 

 

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あんなに恐く見えたおじさんが、楽しそうに笑っている。

 

電線のない場所で、青空をバッグにすると、シャボン玉ってこんなに色鮮やかに見えるんだ。

 

虹色とはまさに……

 

 

 

 

虹色?

 

私は途端に、目の前の見知らぬ女の子が、電車で出会った少女と重なる。

 

虹色の部屋。

 

そしてそれは、次の瞬間、確信に変わった。

 

 

 

 

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「これだよ、 虹色の部屋だよ」

 

私は砂吹の肩をバンバン叩く。

 

「すぐ消えちゃうって、言ってたもんなあ」

 

砂吹がのんびりと答える。

 

 

 

 

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素敵な、パパだね。

 

心からそう思った。

 

 

 

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「ねえ、話しかけに行こうよ」

 

「まあ待て、焦るな」

 

すると砂吹は、そっと人差し指をのばした。

 

「見ろ。何の因果か、あそこで一眼構えてシャッター切ってる奴が、おれ達の3人目の仲間だ」

 

 

 

 

第12話。オハナシはつづく。

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