蝉フィクション

宝くじ1億円当てた男、砂吹(偽名)。彼に誘われた見ず知らずの4人の共同生活 in London. リアルタイム小説&ガイドブックの折衷案。

第9話「ロンドンで£7.65で極上ハンバーガーとビールが飲めるpub」

 

急避難時にも、ビールグラスを持っ
て逃げるイギリス人男性がニュースで話
題になった。それほどロンドンのビール
は高い。オススメ良心的価格の英国pub

 

 

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普通のブログは書くなと、砂吹(すなふき)は常日頃言っている。

 

砂吹とは、私がロンドンで執筆をするための、実質上のスポンサーだ。

 

宝くじが1億当たったと言っているが、基本的にケチで、当たったかどうかも疑わしい。

 

自意識ばかりが高く、私たちは一応偽名で、イーストロンドンで生活をしている。

 

 

 

 

「そもそも砂吹の言う、普通のブログって、どういうのよ」

 

「ごく普通のブログだ。美味しいと評判のレストランに行きました。お洒落な雑貨屋さんを見つけました。これが並んでまで食べる価値のあるパンケーキです。リアルが充実しているアピール。いいね欲しさに買うだけ買って、写真を撮ったらハイおしまい。これからは話題のパンケーキ、食べるなら1500円、写真撮影のみ500円、という商売業態が流行するだろう」

 

「そんなまさか」

 

否定しつつも、もしかしたら、と思ってしまう。

この砂吹という男、基本的には愚痴の塊なのだが、気まぐれに核心をついてくる。

 

 

 

 

「分かってるよ、私たちは観光をしに来たわけじゃない。でもさ、日本に住んでたって週末くらい外食に行くでしょ」

 

「ならば探せ、安くてうまい店を。おれはあの、pubというものに行ってみたい」

 

自分だって遊びたいんじゃん、という言葉を飲み込む。またヘソを曲げられたら厄介だ。

 

 

 

 

pubとは、ビールを片手に人々が会話を楽しむ、イギリス発祥の酒場のことだ。

 

日本の居酒屋と何がちがうかというと、たぶん色々あるのだが、そのひとつは、手軽さな気がする。

 

店に入っても店員に席を案内されることもなく、自由に座る。注文はカウンターに行ってキャッシュオンで支払い、その場で飲み物を受け取る。郊外の小さなpubは食事を置いていないことも多い。みんな食事を済ませてから飲みに来るのだ。

 

昔の簡易宿泊所がpubの起源で、町の中の便利な社交場の歴史が、今も引き継がれている。

 

 

 

 

ロンドンの中心街には、食事をできるpubも多い。

今回は砂吹の条件は、良心的価格かつ、pubの雰囲気が味わえる場所。

pubでは通常、ビール1杯 £5〜6(700円〜840円 £1=140円)と、日本と比べて割高だ。

 

 

ビールの量は

英国、1パイント   568ml  840円

日本、中ジョッキ 435ml  450円

日本、大ジョッキ 700ml  750円

 

 

日本は店によってジョッキの量や価格はまちまちだが、平均で比べると、高いのが分かる。

 

そんな中、美味しいハンバーガーとポテト、好きなビール1杯がセットで£7.65でいただけるお店が、Wetherspoons!!

 

 

 

 

www.jdwetherspoon.com

 

 

 

 

いくつも店舗がある中でここを選んだのは、店名にShakespeareと入っていたという、ただそれだけのこと。 

 

そしてこれが、Classic beef humberger

フライドポテト、ビールも付いて、£7.65

 

アボカド70pをオプションで。

 

 

 

 

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食べ物を注文する時は、机の上に刻まれているテーブルナンバーを訊かれるで、最初に覚えておく。

 

飲み物はロンドンエールというのにしてみた。さっぱりしていているが、独特な味だ。そもそもビールを飲み慣れていないせいもあるかもしれない。

 

 

 

 

砂吹は酒に弱いのか、1杯目を飲み終える頃にはすでにほろ酔いのように見えた。

 

私は普段飲まないが、量は結構飲める。

これはチャンスだ。もう少し飲ませて、1億の真相を問いただそう。

 

悪く聞こえるかもしれないが、ただ気になるだけだ。騙しとろうと思ってるわけではない。

 

1億が本当にあるのか、ないのか。なければないでいい。ただ、本当のことが知りたい。

 

 

 

 

私は虚ろな目の砂吹に、次は何が飲みたいか訊ねた。

 

ハンバーガーと1杯目は砂吹が支払ってくれた。2杯目は私が出す。

Buying a roundと言って、毎回個別に会計するのではなく、一人の代表者が全員分の飲み物を買って、代表者を順番に回していく。それがこちらのルールらしい。たしかに、レジも混まないで済む。

 

砂吹は「ギネス」とぶっきらぼうに言った。

 

真っ黒なビールを持っていく。これは本当に美味しいのだろうか。

 

 

 

 

「砂吹はさ、これからどうしていくつもりなの。その、1億円で」

 

周りは英語が飛び交っている。もう日本にいた時のように「しっ! 声がでかいぞ、誰が聞いているか分からない」とは言ってこない。

 

「1億は、ない」

 

やはり、嘘だったか。

しかし、どこかすっきりした気分になる。

宝くじなど、そうそう当たるはずがない。

 

 

 

 

「あと、9,947万くらいだ。ロンドンに来るのに、結構使ったからな」

 

私は、束の間の安堵から、再び緊張感をともなう。

一応、周りに日本人がいないか窺う。

 

行きの航空券と家賃、デポジット。それでほぼ53万だ。本当に1億あるのだろうか。

 

計算をしていたのを勘付かれたのか、砂吹は「あとペンキも買った」と独り言のように言った。ヘムの家の壁を塗った、大きな2缶の白ペンキ。しかし、1億持ってる男からしたら、大した出費じゃないだろう。

 

 

 

 

「おまえは、1億という金を、どう考える」

 

「どうって、そりゃ何でもできるでしょ。世界一周とか、起業するとか、豪遊するとか、資産の、運用とか?」

 

資産運用と言ってみたところで、実際に何ができるのかは知らない。子どもの九九のようなものだ。知ってはいるけど知らない言葉だ。

 

 

 

 

「でも、一生は生きていけないよね」

 

「なぜそう思うんだ」

 

「だって、サラリーマンが生涯に稼ぐ平均は2億円とか言われてるじゃない」

 

「それが、そもそも間違っているんだ」

 

 

 

 

砂吹は口についた柔らかそうな泡を、手の甲で強引に拭った。

 

「1億でも、実は十分生きていける。誰もが計算違いをしているのは、働くためにも日々、かなりの金を使っているということだ」

 

「どういうこと?」

 

「職業によっては、ちゃんとした服装をしなければならない。交際費も、しっかりした地位にいる人ほど、バカにならない。だが、ひっそりと暮らしていけば、30歳でリタイアしても、1億あれば暮らしていける」

 

つまり、一生働かなくて済む額を手に入れてしまったんだと、砂吹はつまらそうに言った。

 

 

 

 

「でも、それなら、わざわざロンドンに来なくてもよかったじゃない。それこそ、田舎にでも引っ越して、ひっそり暮らせば」

 

「別におれは、働きたくないわけじゃない」

 

 じゃあいったい何なんだ、と言いたくなってくる。

 

 

 

 

「おまえはおれが本当に1億持っているなら、ケチな人間だと思ってるだろう」

 

思っている。

 

「だがおれは1億持っていたところで、前の自分と何ら変わりのない、ダメな人間だということを分かっている」

 

これは驚いた。あれだけの自信家が、自分のことをダメだというとは。

 

 

 

 

 「だから、金を使うのは、今じゃない。

 

おれが何をするつもりなのかは、あと2人加わった時に、分かる。

 

そのうちの1人は、すでにイギリスに入国している」

 

 

 

 

砂吹は、ゆっくりとそれだけ言うと、突っ伏して眠り始めた。

 

1億本当にあるということでいいのだろうか。私がすでにイギリスに来た以上、嘘をつく必要はない気がする。

 

金がないと分かれば、私が早々に日本に引き返すとでも思っているのだろうか。

 

まあいい。今日の意外な収穫は、砂吹は飲むと弱気になるということだ。

自信たっぷりで鬱陶しい時には、お酒を飲ませることにしよう。

 

 

  

 

次回、第10話。私たちは、ブライトンという海沿いの町へ。
olm-h.hateblo.jp

 

 

 

 

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