蝉フィクション

宝くじ1億円当てた男、砂吹(偽名)。彼に誘われた見ず知らずの4人の共同生活 in London. リアルタイム小説&ガイドブックの折衷案。

第14話「痩せようと思えばいつでも痩せられる人」

 

末さんの意外な一面に驚く三井。ナ
レーターはポーカーフェイスで話を進め
なくてはならない。そんな時に出てきた
砂吹の友人、いつでも痩せれる佐藤くん。

 

 

 

 

olm-h.hateblo.jp

 

 

 

 

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広末さんと別れを告げ、ブライトンを後にする。

 

ロンドン行きの電車の中で、広末さんから受け取った日記を読んで、驚いた。

 

私が抱いた最初の印象とは、遠くかけ離れていたからだ。

 

また、少し年上だとは思っていたが、あの容姿で32歳だという事にもびっくりした。

 

 

 

 

私は小説家を目指して、ロンドンに来た。

 

今は、砂吹が借りている一軒家に住ませてもらっていて、もうすうぐカメラマンの広末さんも、ハウスメイトとしてそこに加わる。

 

ロンドンで起きたことを、三人称単視点で小説のように書くのが今の仕事だ。

 

そして、ハウスメイトはブログを見てはいけないことになっている。私が自由に書けるようにと、砂吹が配慮してくれたのだ。

 

 

 

 

配慮、といえば聞こえはいいが、誰にも相談できない、とも言い換えられる。

 

私がどのように解釈して、どのように書くかを決められる。

 

いや、決めなくてはならない。

 

結末を決めていない小説で、方向性も分からず、とりあえず私はありのままに書いている。

 

 

 

 

「どうした、腹へってるみたいな顔して」

 

隣の席から、砂吹がふいに声をかけてくる。

 

「いつもこの顔よ」

 

「いつも腹へったみたいな顔してるぞ」

 

「どんな顔よ」

 

「こんな顔だ」

 

失礼な、と思いながらも、たしかにお腹はへっていた。

 

 

 

 

「三井、ロンドンに来てみて、どうだ。何か驚くようなことはあったか?」

 

何をいきなり、と思う。私は今、広末さんの日記に驚いていたが、そんなことは言えない。

 

「意外と、ジェントルマンがいないことかな」

 

「そばに紳士がいると気が付かないものさ」

 

 

 

 

もうつっこむのも面倒で、私は砂吹に同じ質問をした。

 

「砂吹は? 何に驚いた?」

 

「ロンドンはデブが走ってる率が高いな」

 

「何よそれ」

 

 

 

 

「ニューヨークに行った時、走ってる人をよく見かけたが、彼らは皆引き締まった体の人ばかりだった。それもかなりのハイペースで走っている。一方ロンドンは、見るからにアスリートというのもたまに見かけるが、デブがえっちらおっちら走ってるのを非常によく見かける。東京の人間が朝会社に向かうくらいのスピードだ」

 

「偏見でしょ。良いことじゃない。痩せようと頑張っているんだよ」

 

「おれには、彼らがランニングを続けられるとはどうしても思えないのだよ。左右非対称過ぎる間違ったフォーム、すぐに膝に溜まった水が沸騰しそうな巨体だ。おれが何を言いたいか。それは、物事を始めるタイミングと自信の関係だ」

 

「どういうこと」

 

 

 

 

「おれの中学校の同級生、佐藤くんの話をしよう。お肉大好きジュースもお菓子も浴びるように食べていた佐藤くんは、そのまま大人になった。彼の体重は100kgを越えたが、おれは彼のある一点を非常に高く評価している。それは何か。痩せようと思えば痩せれる、を実際に実行できる数少ない人間なのだ」

 

「ダイエットに成功しただけじゃないの」

 

「いやちがう、彼は今も100kgだ」

 

「成功さえしてないじゃん」

 

 

 

 

「彼は一度ダイエットすると決めて、目標体重をたとえば65kgと設定したとする。すると、半年以内に必ず達成する。大好きな肉をやめてササミを食べ、貴重な楽しみである炭酸飲料やお菓子をやめて運動するのだ。いかにもシンプルだが、実際にここまでストイックに結果を出せるデブをおれは他に知らない。彼のすごいところは、目標体重を達成すると元の生活に戻り、元のデブに戻ることだ。それを4,5回繰り返す。痩せようと思えば痩せれる、という自信のもと、彼は今日もおやつを食べている。健康にいいかはさておき、有言実行は素晴らしいことじゃないか」

 

「それとロンドンのランナーと、何の関係があるのよ」

 

「おれは、佐藤くんのように痩せることはできない。何故ならば、彼は痩せるコツや効率を知ってるわけじゃない。ただひたすら、意志が強いだけなんだ。だからこそ、凡人で意志がそれほど強くないおれたちには何が大切か。それは、『そろそろ始めなきゃな』という段階で始めることだ」

 

 

 

 

砂吹はそっと息を吐いた。

 

「つまりロンドンのランナーは、『そろそろ始めなきゃな』を完全に見逃した人間だ。これは、何にでも共通していえる。ダイエット、叶えたい夢、婚活、資産運用、アンチエイジング。そろそろ始めなきゃな、で何かしら行動を起こさなきゃいけないんだ」

 

いいか三井、これは宣誓ではないぞ。宣誓なんて、できない奴のできないフラグでしかないからな、とこれでもかと念を押したあとで、砂吹は言った。

 

「美容と健康のため、おれも走ることにした」

 

 

 

 

砂吹のくだらない宣誓のためにディスられた全てのロンドンの方へお詫びしなくては、と私は思った。

 

「だから、最後に美味いもんでも食いに行こう」

 

「あんたがお腹へってるから私の顔だってそう見えるんでしょ」

 

 

 

 

ロンドン、Victria Stationに到着した時は、もうお昼をだいぶまわっていた。

 

私たちは昼食をとれる場所を探す。

 

この暗い曇り空の写真たちも、広末さんが来てくれたら、もっと良いものになるだろう。

 

広末さんの引っ越しは来週の予定だ。

 

 

 

 

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