蝉フィクション

宝くじ1億円当てた男、砂吹(偽名)。彼に誘われた見ず知らずの4人の共同生活 in London. リアルタイム小説&ガイドブックの折衷案。

第18話「イギリス人が好む夏の風物詩、Pimm'sというカクテルが美味し過ぎる」

   

の終わりを惜しむように、私たちは
Pimm'sというカクテルで乾杯をした。味
の印象は紅茶っぽい。さすがイギリス人と
言ったら、味音痴は喋るなと砂吹が言った。

 

 

 

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作家志望、24歳、イギリス3ヶ月目

 

 

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カメラマンの広末くんをハウスメイトとして迎えてからまだお祝いをしていなかったので

Pimm'sというお酒を買ってきてプチパーティをすることになった。

 

イギリス人が夏に好んで飲む、伝統的なカクテル。

 

ジンをベースに、ハーブやスパイスがミックスされたお酒を、レモネードで割るのが最も親しまれる飲み方。

 

 

 

 

「なんできゅうりが入ってんだ?」

 

「さあ、でもどのこパブで頼んでもきゅうりは入ってるらしいよ。その他は、何を入れてもいいみたい。イチゴ、オレンジ、リンゴ、ミント」

 

「あ、でもきゅうりがすごい効いてますね。甘くて、飲みやすい」

 

フォローしてくれるように広末くんが感想を口にする。

砂吹はお酒のラベルとにらめっこしている。

 

 

 

 

「それにしても自らNo.1と名乗るとは、さぞ図々しいやつが作ったんだろうな」

 

「それはちょっとちがうよ。ピムさんって人の経営してたオイスターバーで食前酒として出されたのが最初らしいんだけど。このPimm's No.1っていうジンベースのやつが一番有名で。昔は、No.2 スコッチベース、 No.3 ブランデーベース、No.4 ラムベース、No. 5 ライベース、No.6 ウォッカベースってのがあったらしいよ」

 

 

 

 

携帯に目を落としながら私はインターネットの情報を読み上げる。

 

「わあ、おもしろい。聞いて! このPimm'sのカクテルのレシピを知ってるのは、世界に6人だけなんだって」

 

「へえ、じゃあ、その6人が一度に殺されたら、この美味しいお酒、もう飲めなくなっちゃうんですねえ」

 

「そんな爽やかな笑顔で後ろ暗いこと言わないでよ広末くん」

 

「6人しか知らねえ意味あんのか」砂吹がぶっきらぼうに言いながらイチゴを手づかみで頬張る。

 

 

 

 

ふと思い出して私は話題を変える。

「そうだ、広末くん。3人で旅行に行こうってことになったの。どこに行きたい?」 

 

「旅行、いいですね」

 

「私はポルトガルに行ってみたいなあ。砂吹は?」

 

「フランス以外。フランス人は嫌いだ」

またそういう偏見言って、と砂吹を嗜める。

 

 

 

 

バルト三国なんてどうですか?」

 

どこ!? という声が砂吹と重なる。

 

「北欧、フィンランドの南ですよ。上から、エストニアラトビアリトアニアという3つの小国です。バルトは美女が多いことで有名で、中でもラトビアは、男性の人口が圧倒的に少なく、世界で一番美女と結婚できる可能性が高い国などと言われ……」

 

「そーこーにしよう! そこに決定だ! 三井、今すぐ飛行機を手配しろ。各3日、全部で10日くらいでバルトサンコなんちゃらを制覇するぞ」

 

「やだよ、そんな理由で」

 

 

 

 

 私が怪訝な表情をすると、砂吹はにやりとした。

 

「なんだ、正当な理由なら他にもあるぞ。北欧なんて寒いところは夏に行くべきだ。それに、せっかくロンドンにいるんだ。日本からパリやミラノは直行便でも行けるが、バルト三コなんちゃらなんて国は今日初めて聞いたし、今行かなかったらきっと一生行かないぞ。調べてみたら物価も安く、郷土料理やビールも美味いらしい。時に三井くん。昨日、財布を失くしたと泣きついてきた挙げ句、夜遅くに迎えに行ってあげたのは一体どこの誰だったか覚えていますか」

 

「はいはいはい、その節はありがとうございました。バルト三国のチケットを取ればいいんでしょ」

 

「周り方は任せる、明日出発だ」

 

 

 

 

こうしちゃいられん、皆の衆、準備にとりかかれ! と言って、砂吹は自分の部屋へバタバタと足音を立てて帰って行った。

 

広末くんが、大変ですね、という労いの顔を向けてくる。

 

「チケットやホテルの手配、できることがあれば手伝いますよ」

 

「とりあえず、大丈夫です。もし分からないことがあったら訊きますね」

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

一人、Pimm'sを飲んだグラスを洗っている時、そっと後ろに気配を感じた。

 

「これは貸しだ、働いて返せ」

 

そう言って砂吹は、黒のがま口の小銭入れのようなものをテーブルに置いた。

 

私は泡のついた手をそのままに、とりあえずお礼を言った。

 

 

 

 

手を拭いて中を開けてみると、現金と新しいオイスターカードが入っていた。

 

昨日の今日で、いったいどこで買ってきてくれたんだろう。

 

もう二度と失くさないように、早くその新しい感触に慣れようと、強めに握ってみる。

 

働くか。

私はパソコンを開いて、苦手なことのひとつである、旅行の手配というものに挑戦する。

 

 

 

  

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