蝉フィクション

宝くじ1億円当てた男、砂吹(偽名)。彼に誘われた見ず知らずの4人の共同生活 in London. リアルタイム小説&ガイドブックの折衷案。

第24話「世界一美女が結婚しにくい国、ラトビア」

 

女が多い事で知られるバルト三国
そしてラトビアは、男性の人口が極端に
少ない。美女が有り余っている、チャン
スはあると砂吹が興奮している。
 

  

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作家志望、24歳、イギリス6ヶ月目

 

 

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「おい、なんでベッドだけのドミトリーなんだよ今回は」

 

砂吹が、旅行の計画全般を担当した私に抗議する。

 

「だって、浮いたお金で観光したり、美味しいもの食べた方がいいと思って」

 

「おまえ、あと9千7百万あるんだぞ、変なところケチるな。美女が多い国で男女混合ベッドなんて……」

 

 

 

 

意味ありげに一拍おく。「最高じゃないか!」 

 

はいはい、と受け流す。それはもう熟練の合気道選手のように。

 

「だからってラトビアの人は、ドミトリーなんて泊まらないんだから」

 

「どんなことがあるか分からんぞ。ダディとケンカしてプチ家出している可愛い子ちゃんの、人生相談の相手になるかもしれない。このおれが」

 

はいはい。

 

 

 

 

一日目。私たちが着いたのは夜遅かったので、スーパーで食材とビールを買って、共有スペースのリビングで簡単な乾杯をした。

 

ビール1本1ユーロちょっと。

 

 

 

 

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「でも、海外に来ると、色々なことに驚きますよね」

 

広末くんが感慨深く言う。「でも」というのは、海外なら砂吹の言う劇的な出会いがあるあもしれない、というところにかかるのか。ひとまず「分かる気がする」と相槌を打つ。

 

「何に一番驚きました?」

 

何だろう、と考えてみる。

 

 

 

 

「自転車の、スタンド」

 

自転車のスタンド? と二人は顔を見合わせる。

 

「よく映画の中で、やんちゃな小学生たちが、気の弱い男の子をいじめるシーン、あるじゃない」

 

私は頭の中にフォレストガンプが流れていた。二人も、それぞれのお気に入りの映画のシーンを思い描いている様子だ。

 

 

 

 

「いじめっ子が集団で男の子の前に現れて、彼らは乗っていた自転車をガシャンってその場に倒すの。無造作で荒っぽくて、タイヤがくるくる空回りしていて。いかにも強そうじゃない?」

 

うん、まあ、と気のない返事が返ってくるが、私は構わず続ける。

 

「これ、ずっと演出だと思ってたの。でもさ」

 

二人がこちらを見る。

「ないのよね、自転車のスタンドが、そもそも」

 

 

 

 

「ああ、え、そこ?」砂吹が目を丸くする。

 

「うん、分かる。こっちの自転車って、みんなスタンド付いてないよね」いつも広末くんはフォローしてくれる。

 

「別に何でも拾うのが優しさじゃないぞ。これ以上三井を付け上がらせるようだと、君をセッターと呼ぶぞ」

 

「セッターは拾う人じゃないから。トスを上げる人だから」私はそれこそ拾ってしっかり訂正する。

 

 

 

 

「広末くんは? 外国来て、何に驚いた?」

 

彼は考えるように視線を外す。

 

「クラクション、ですかね」

 

「鳴らし過ぎだよね。挨拶代わりかってくらい」

 

 

 

 

「いや、僕が驚いたのは、本当に挨拶に使うんですよ。例えば、道端で知り合いが歩いているのに気が付くと、クラクションを鳴らして気付かせて、手を振ったりして。下手したら窓開けて、道の真ん中に停車して話し出しちゃったり」

 

「見覚えあるな。日本だと知り合い見つけても、こっちが車だったら通り過ぎるしかないもんな。あとで、あの時歩いてたの見たよ、って報告するのが精一杯だし」砂吹の言葉で、免許持ってるんだと初めて知る。

 

「あとは、体格も大きいからか、随分遠くの知り合いを見つけることができて、挨拶のタイミングが早い、早過ぎる」

 

「どういうこと?」

 

 

 

 

「この前、道を歩いてたら、よう、調子はどうだい? みたいな感じで手を上げて挨拶してきたんですよ。大柄の、黒人が。こっちって、気さくな人だったら、知らない人同士でも普通に挨拶するから。レジで前後の人とか。そうだと思って、こっちも挨拶返したら、彼は僕の後ろの知り合いに挨拶してたんですよ。恥ずかしいったらない」

 

あるあるだね、と私は笑う。

 

「でも異常に遠くの人ですよ。その距離感は、ないないです。挨拶が、あらかじめ過ぎる」

 

「きっとわざとやってるんだよ、広末くんに恥をかかせるために」

からかうように砂吹が言う。

 

 

 

 

「よし、復讐しよう」

 

砂吹がまた訳の分からないことを言い出した。

 

「どうやってですか」

 

「よお! って挨拶して、返してきたら、おまえじゃないんだよって顔で、その向こう側の人に、さも知り合いかのように話しかける」

 

 

 

 

「八つ当たりもいいところじゃない。その人は何も悪くないのに」

 

「それに、向こう側の人に、おまえなんか知らねえって言われた日には、それこそ立ち直れないですよ」広末くんは苦笑いをする。

 

共有のリビングでそんな話をしていると、他のグループの人たちも入ってくる。

 

どこから来たの? から始まり、世間話がはじまる。

 

 

 

 

「砂吹、しゃべりなよ、英語の練習」

 

「おまえ、ちょっと喋れるからって、覚えてろよ」

 

「プチ家出美女、探すんでしょ」

 

そうだった、と俄然やる気を出したようだ。

 

 

 

 

「こういう交流が、ドミトリーの醍醐味ですよね」

 

「うん、貧乏旅行ならでは。全部個室に泊まっちゃうと、味わえないよね」

 

 

 

 

 砂吹が、辿々しい英語で必死に話している姿を見て、私たちは微笑ましく思う。

 

しかし彼が、本当に金髪美女がらみの事件に巻き込まれることを

この時はまだ知らない。

 

 

 

 

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